三尖弁閉鎖不全症

今回は犬の心臓病~三尖弁閉鎖不全症~について解説します。

三尖弁閉鎖不全症


僧帽弁閉鎖不全症は心臓病の中で最も多く発生する病気ですが、三尖弁閉鎖不全も比較的見られる状態です。三尖弁閉鎖不全も僧帽弁閉鎖不全と同じく、三尖弁がしっかり閉じれない症状を表している用語であり、病名ではありません。一般的には、高齢の小型犬において、僧帽弁とともに三尖弁も粘液種様変性を起こして発生することが多くあります。僧帽弁閉鎖不全と比較するとすぐに命に関わる状態ではないためか、一般的に僧帽弁閉鎖不全のほうがよく知られている病気です。
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〇 原因は?

三尖弁閉鎖不全症は、三尖弁を形成する弁尖や腱索などが粘液種様変性により変形することが原因です。

三尖弁は右心房と右心室の境にあり、一方向だけに開閉しそれぞれの部屋血液が逆流することを防いでいます。僧帽弁は左心系、三尖弁は右心系です。

 

三尖弁閉鎖不全症では、通常加齢に伴い僧帽弁とともに、弁尖が肥厚し腱索が伸びたり切れたりして弁の機能が低下し、しっかり閉じないようになってしまい、血液の逆流が生じてしまいます。このような後天的に起きる慢性房室弁膜疾患において、2~4割程度で、僧帽弁と三尖弁が同時に異常が見られると報告されています。

先天的に三尖弁異形成があることもあります。また犬糸状虫(フィラリア)の寄生により、三尖弁逆流が起こることもあります。

 

〇 症状は?

心臓は血液を送るポンプの役割をしており、血液の流れは全身から返ってきた血液が右心房、右心室を通り肺へ、その後肺から左心房に戻ってきて僧帽弁を通過、左心室から全身に送られます。三尖弁で逆流が生じると一度右心室に入った血液が、右心房に逆流してしまいます。僧帽弁閉鎖不全に併発して起きている場合以外は、はじめは無症状であり、逆流が進行すると元気消失、食欲不振、運動不耐といった症状がみられるようになります。

右心系で血液のうっ滞は、血液の流れとして全身から返ってきた血液が右心房に入るので、全身で液体成分が漏れ出します。おなかの中(腹腔内)で液体が漏れ出すと腹水が貯留します。また体表で液体が漏れ出すことにより、浮腫が起こることもあります。

肺高血圧に伴う失神といった症状もでることがあります。

〇 診断は?

三尖弁閉鎖不全症では血液の逆流に伴って心雑音が出現してくるので、聴診にて発見されることが多いです。他にも身体検査所見では頚静脈の拍動が三尖弁閉鎖不全症のみが起きている場合は通常、はじめは無症状であり、超音波検査により軽度の逆流が確認されることもあります。

超音波検査では、カラードップラー法により、三尖弁での逆流が実際に画像で確認可能であり、拡大している右心房が見える場合もあります。腹部超音波検査では腹水の貯留の有無を確認することが重要であり、肝臓の腫大が見られることもあります。

レントゲン検査では右心系の拡大が確認されます。僧帽弁閉鎖不全との併発が見られる場合は肺水腫の有無も確認します。

血圧測定や、心電図検査も組み合わせて病状を把握する場合もあります。

〇 治療は?

いくつかの薬を組み合わせて治療します。治療は内科治療、主に飲み薬であり、僧帽弁閉鎖不全の治療で使用される薬とほとんど同じです。血圧を調節する薬、収縮力を改善する薬を使用し、腹水が認められる場合は、利尿剤などを使用します。腹水のコントロールが内服ではうまくいかない場合は、腹水を抜去することがあります。少量の腹水は通常抜去することはありませんが、大量の腹水により、呼吸が抑制されたり、食欲が低下したり、運動を制限する場合は腹水を抜去します。

この三尖弁閉鎖不全症も完治することはないため、生涯にわたって投薬治療が必要です。また症状に応じて治療薬が追加されます。